奈良本辰也先生(1913〜2001・山口県生まれ)は戦後日本史学を代表する泰斗のおひとりであった。史的唯物論から出発し、それを乗り越えて近世と明治維新期を主とする日本の歴史研究に社会史の総体から、また史上に登場した数々の人物の思想と行動から光をあてられ、斬新な史論を提起された。その著書は処女作『近代陶磁器業の成立』(1943)をはじめ、『明治維新論』(1968)にまとめられた諸論考、そして『吉田松陰』『二宮尊徳』『高杉晋作』など多数の評伝、解説、校注、随想、果ては『洛陽燃ゆ』という歴史小説まで多彩、多方面にわたり、単独の著作だけでもその数は72冊におよぶ。

 先生はまた戦後日本の再出発に際して歴史学徒の立場からさまざまな社会的発言を続けられ、大学の復興にも精力を注がれた。しかしその大学が権威と権力に固執しようとした時には、職を辞してその姿勢を批判された。以後、先生はあらゆる公職に就くことなく、一歴史学者として引き続き研究と著述に専念された。またそのころより江戸時代の私塾の意義を評価され、自立した市民のための教育機関を創りだすことにも関心を払われていた。そのような過程を経て、1985年から本瓜生山学園の理事、最晩年には顧問に就任され、本学園の運営について助言と協力を惜しまれなかった。

 本記念文庫は奈良本辰也先生のあまたのご業績を生み出したご蔵書を一括して所蔵管理し、広く研究者・学生の利用に提供したいというご遺族のご意思により、本学に寄贈されたものである。新しい世紀の人間復興をめざして歴史遺産学科を創設した本学としては先生の長年の収集になる貴重な史料・史書を収蔵し、活用できることをまたとない栄光と思う。

 先生のご逝去一周年にあたり、あらためて先生のご冥福を祈るとともに、その学恩に感謝し、またご遺族のご厚志を謹んでお受けして本文庫がとこしえに多くの学問研究にたずさわる人々に愛され、活用されることを念じてやまない。
 
 

2002年3月22日 
学校法人 瓜生山学園
京都造形芸術大学
 
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